神田神保町の露路にある小さい古本屋、私共の「がらんどう」。 三年前に今の露路の反対側に初めの店を開け、一年程経って今の店も開いた。 二つの通りをつなぐ露路の両端に2つのがらんどうがあるのが何だか うれしくて、ここにいつもいる三びきの白い猫達にあいさつしては 通りぬけるのが楽しみでもあった。 でもこの小さな店でも二軒開けているのはむずかしく今年一月に今の錦華通りにある店ひとつに決めた。
近くにあるお茶の水小学校は、以前錦華小学校といわれ夏目漱石が在学した学校とか。こう教えてくれた人はこの錦華通りはいい通り名だよって。明治大学や山ノ上ホテルも近くにあり本当におちつくいいところである。今年は初めて祭のみこしにワクワクしながらくっついて歩いた。時々この町を普通に慣れ親しんだところのように歩いている自分を発見して不思議な気持になる。元々は愛知県安城市にがらんどうを出し今年で二十三年目。三年程前、本ともう少し身近になることが出来るだろう、東京に何とか小さくてもいい店を出したいとさがして歩きまわっていた。
神田は、はじめから無理だとあきらめていた。名舌亭というからすみを干していたおいしそうな名前の店に入らなかったら今の神田神保町のがらんどうはなかったにちがいない。店の前に偶然不動産屋さんがあり店を決めた。がらんどうでは今、「谷中安規」展を開催中(〜6/14)で6/7の版画家の大野隆司さんと安規さんを御世話し最后を見届けた佐瀬さんとのトークの会には多くのお客様で狭い店は一杯になった。九月にももう一度安規展を開催予定している。
東京の店でも壁一面だけは残し、安城の本店でのギャラリーの様な事をぜひつづけていきたかった。槐多の絵と共に窪島誠一郎さんの講演会、丸木位里・俊原爆の図・夜も展示させてもらった。木下晋・水上勉・池袋モンパルナスとその周辺展やハンセン病で詩人の桜井哲夫さんと金正美さん、そして青木裕子さんの朗読のお話しの会、又新井英一・長谷川きよしライブ・坂本長利一人芝居などなど。そして「宮本常一旅から学ぶ」として毛利甚八×村崎修二との対談もおもしろかった。もの書きだった父親の風呂敷に資料や原稿を包み出かけた姿を思い浮かべ、足で多くの取材をして伝える、それに少しでも近い形で何か出来ないだろうかと思う。市場でたまに父の著書をみつける時がある。ドキッとしてほおっとする。
今年、佐竹茉莉子さんの初めての写真集が出来た折には、いい顔した猫達で壁いっぱいになったし、林G和さんの木彫の猫達で店の中がほっとした。これからの斎藤吾朗個展、北井一夫写真展は四回目。福島菊次郎も忘れられない。本当に多くの出会いがあった。
ここは古本屋さん? ってよく聞かれるけれど、多くの人達に出会い、多くの作品や物達が通りすぎ、多くの本にこれからも出会いたいと思っている。おもしろくってやめられない。だから何とかつづけていきたい。そんな毎日である。
昨日も雨の中エンケンサンが寄ってくれた。他に来客もなくて、ゆっくり本をさがせるなんてうれしいと言ってくれ選び出したのは大西巨人・山本作兵衛・西光万吉そして中古の一澤帆布のかばん。
おもしろい店だねェいろいろあって――こうしてずっといきたいものである。 |