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文の京サロン 第十六回:「わが町探訪 第十一回『棚澤書店』【最終回】(文京区本郷六丁目十八-十二)」

歴史と文化の豊かな本郷には「求道会館」等昔の建物が残って居ります。

平成八年文部省で「登録文化財法」が出来、平成十四年十二月一日現在全国で二九八〇件文部省に登録されて居ります。その中、東京都一三二件、文京区三四件です。

この度、遠山文部科学大臣より、わが家が国の登録文化財の通知を受け、子供達の賛成の上お受けいたしました。

家屋は東大正門前の本郷通りに面し、明治の棟梁が心を込めて作った木造二階建で、質素で堅牢な江戸商家様式を引き継いだ、明治中期の商店建築です。

特色について左記します。

  1. 通常二階建の家は大屋根の軒が短く、壁又は窓の上に桁を作り屋根を支えて居ります。ところがわが家の軒は約一メートルと長く出て居り、この為約四十センチの長さで十五センチの角材が外に出て、更にその上に「出し桁」が作られ屋根を支えて居るのが特徴です。長い軒は建物本体を風雨から護って居ります。
  2. 二階ベランダに手摺りを廻して居る事は当時洋風建築を取り入れた和洋折中の姿です。
  3. 一、二階の天井の高さが低いのは、明治中期の庶民建築の特徴です。

建築後、大正十二年九月関東大震災が起き、東大構内の木造建築は殆ど焼失しました。昭和二十年三月東京大空襲では、東大赤門迄類焼しましたが、父や近所の人達の必死の消化と、現在の赤門ビル、広い法眞寺のおかげで延焼が止りました。更に昭和四十三年、四年学園紛争東大安田講堂事件では、デモ隊が衝突し外壁が破損しましたので修理しました。振り返ってみればこの様な数々の出来事にもかゝわらず、幸いにも難を免れて今日に至って居ります。

古くから御愛顧頂いた文人も多く、中野重治著「むらぎも」、木下順二著「本郷」等の文芸作品に父が出て居ります。

現在では東大周辺に出来た近代商家の街並景観の中で「歴史と景観を伝える」建物の一つとなって居ります。

今日あるのは創業以来、多数の人々のお引立、御後援の賜と深く感謝して居ります。

今後は気負う事なく大事にして行きますが、何分初めての事ですので、御指導の程お願い申し上げます。

(文京支部員 棚澤書店 棚沢孝一)

(『慈愛だより(発行 慈愛病院様)』より転載致しました。また、連載の順序は初出時と異なります。)

棚沢書店外観

長い軒、ベランダの手摺りにご注目下さい。

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